自動車整備士とは、車のメンテナンスや修理を専門に行うプロフェッショナルです。この記事では、資格取得までのステップを詳しく解説します。また、試験の難易度や合格率、仕事のやりがいや将来性についても紹介します。
自動車整備士とは
自動車整備士とは、自動車に関する専門知識と技術を身につけ、自動車を安全かつ快適に使用できるように点検や修理などを行う職業です。ガソリン車やディーゼル車だけでなく、最新のハイブリット車や電気、水素自動車などにも対応する必要があります。自動車整備士は、車のお医者さんとも言える存在であり、定期的な点検や故障箇所の修理を通じて、車を健康な状態に保つ役割を果たします。
自動車整備士の仕事内容は、主に「点検整備・分解整備」の業務を担当します。
点検整備では、ハンドルの操作具合やブレーキのきき具合、各種パーツの摩耗や損傷、オイルやフィルタの汚れなど、さまざまな項目を点検します。これにより、車の異常を早期に発見し、故障や事故を未然に防ぐことができます。
分解整備では、故障した箇所の修理や点検を行います。エンジンや動力伝達装置、走行装置、操縦装置、制動装置、緩衝装置など、必要なパーツを取り外し、修理や改造を行うことで、車のパフォーマンスや安全性を向上させます。
自動車整備士は、国家資格を持っていることが基本
自動車整備士は定期点検や不具合箇所の修理、部品交換など、さまざまな整備作業を担当します。エンジンやサスペンションなど、複雑な整備作業には自動車整備士の国家資格が必要です。そのため、ほとんどの自動車整備士が国家資格を取得しています。国家資格を持たない場合、就職できる整備工場が限られるため、自動車整備士を目指すなら国家資格の取得が基本と言えます。
自動車整備士の資格の種類
自動車整備士の主な資格は、3級・2級・1級の3種類があります。それぞれの級にはさらに細かな資格が存在しますが、一般的には「○級自動車整備士」と総称されます。
3級自動車整備士の資格
3級自動車整備士は、中学や高校卒業後すぐに整備工場で働く方や、独学で自動車整備士を目指す方が最初に取る資格です。この資格には、3級自動車ガソリン・エンジン整備士、3級自動車ジーゼル・エンジン整備士、3級自動車シャシ整備士、3級二輪自動車整備士の4つの種類があります。3級自動車整備士はタイヤ交換やオイル交換などの基礎的な業務を担当します。自動車整備士としてのスキルを高めるためには、2級自動車整備士の取得を目指すことがおすすめです。
2級自動車整備士の資格
2級自動車整備士は、自動車整備士の専門学校に通う方や3級自動車整備士の資格を持っている方が目指す資格です。全国の自動車整備士のうち8割以上がこの資格を保持しています。2級の種類には、2級ガソリン自動車整備士、2級ジーゼル自動車整備士、2級自動車シャシ整備士、2級二輪自動車整備士の4つがあります。2級自動車整備士の資格を持つことで、ほとんどの整備業務を担当することができます。
1級自動車整備士の資格
1級自動車整備士は、自動車整備士の資格の中で最もレベルが高い資格です。資格の種類には1級小型自動車整備士、1級大型自動車整備士、1級二輪自動車整備士の3つがありますが、1級大型自動車整備士と1級二輪自動車整備士の試験はまだ行われておらず、資格を持っている人は存在しません。したがって、1級自動車整備士といえば、一般的には1級小型自動車整備士を指します。1級自動車整備士の資格を保持しているのは全体の約3%程度の整備士です。
1級、2級、3級以外の資格
整備に関わる資格は1級、2級、3級整備士以外にも存在します。これらの資格を取得することで、整備士のスキルや知識をさらに高めることができます。
自動車検査員
自動車検査員は、自動車の定期点検や車検を行うために必要な資格です。
自動車検査員になるには、1級自動車整備士か2級自動車整備士(2級自動車シャシ整備士は除く)の資格を持っている必要があります。また、勤務先で自動車整備主任者に選ばれてから1年以上の実務経験を積む必要があります。さらに、自動車検査員講習を受講して試験に合格する必要があります。自動車検査員の資格を取得することで、車検も行える指定工場での就業や資格手当の受け取りなどのメリットがあります。
特殊整備士
特殊整備士は、自動車の特定の分野に特化した国家資格で、自動車電気装置整備士、自動車車体整備士、自動車タイヤ整備士の3つの種類があります。特殊整備士の資格を持っていれば、より専門的な知識を身につけることができます。
ディーラー独自の整備士資格
ディーラー独自の整備士資格はディーラーが会社内で設定している資格であり、国家資格ではありません。しかし、ディーラー独自の整備士資格を取得することで、資格手当の支給や昇進の機会が得られる可能性があります。
自動車整備士資格の受験資格について
自動車整備士の資格試験を受けるには、受験資格を満たす必要があります。自動車整備士の専門学校に通った場合と通わなかった場合に分けて説明します。
自動車整備士の専門学校に通う場合
自動車整備士のなかで最も多いのが、高校卒業後に自動車整備士の専門学校に通うパターンです。専門学校には2級自動車整備士を目指すコースや1級自動車整備士を目指すコースなどがあります。専門学校に通うことで、短期間で受験できたり、実技試験を免除できたりといったメリットがあります。
2級自動車整備士コース
2年制のコースで、卒業すると2級自動車整備士の受験資格を得られます。2級自動車整備士の資格を保有し、3年間の実務経験を積むと1級自動車整備士の受験資格を得られます。
1級自動車整備士コース
4年制のコースで、2年の時点で2級自動車整備士の受験資格を得られます。卒業すると1級自動車整備士の受験資格を得られます。1級自動車整備士資格取得までの最短期間は4年です。
自動車整備士の専門学校に通わない場合
自動車整備士の専門学校に通わなかった場合は、3級自動車整備士から順番に取得していくのが基本です。高校卒業後大学に通った場合は、進学した学科によって異なります。
高校が自動車科の場合
高校卒業の時点で3級自動車整備士の受験資格が得られます。3級自動車整備士の資格を保有し、2年間の実務経験を積むと2級自動車整備士の受験資格が得られます。
高校が機械科の場合
高校卒業後、6ヶ月以上の実務経験を積むと3級自動車整備士の受験資格が得られます。3級自動車整備士の資格を保有し、2年間の実務経験を積むと2級自動車整備士の受験資格が得られます。
高校が自動車・機械科以外の場合
高校卒業後、1年間の実務経験を積むと3級自動車整備士の受験資格が得られます。3級自動車整備士の資格を保有し、3年間の実務経験を積むと2級自動車整備士の受験資格が得られます。
自動車整備士の資格試験を受けるためには、専門学校に通うか通わないかに関わらず、一定期間の実務経験が必要です。ディーラーや民間の整備工場、ガソリンスタンドなどで自動車整備の仕事を経験することで、実務経験を積むことができます。
資格試験から資格取得までの流れ
以下では、自動車整備士の資格を取得するまでの手続きと流れについて詳しく説明します。
都道府県の自動車整備振興会で申請する
まず最初に、自動車整備士の資格取得を目指す方は、所属する都道府県の自動車整備振興会に申請を行う必要があります。申請時には以下のものが必要です。
・登録試験受験申請書
・受験手数料
・縦6.0cm、横4.5cmの証明写真
・郵便はがき(学科試験のみ:2枚、学科・実技試験:4枚)
・受験資格を証明するもの(卒業証書、実務経験証明書など)
自動車整備技能登録試験を受験する
次に、自動車整備士の資格取得のために、自動車整備技能登録試験を受験する必要があります。試験内容は以下の通りです。
学科試験:2級・3級は筆記試験、1級は筆記試験と口述試験があります。
実技試験:資格によっては実技試験が行われない場合もあります。
都道府県の自動車整備振興会で手続きをする(全免申請)
自動車整備技能登録試験に合格した後、自動車整備士の国家資格を取得するために、都道府県の自動車整備振興会で全免申請※を行う必要があります。
申請時には以下のものが必要です。
・検定申請書
・学科試験合格証書または学科試験合格通知はがき
・整備技能講習修了証書または一種養成施設卒業証書
・郵便はがき 2枚
・3級整備士合格証書(2級を受験した場合)
・2級整備士合格証書(1級を受験した場合)
・実務経験が短縮になる方は、その卒業証書
・実務経験証明書もしくは検定申請書
・印鑑
・申請料
※全免申請…自動車整備士技能検定試験(検定試験)の免除申請のこと。検定試験を実施する資格や地域が限定的なため、登録試験に合格した後、検定試験の免除申請をするのが一般的になっている。
合格証明書が届く
全免申請手続きが完了すると、自動車整備士の合格証明書が郵送されてきます。これにより、自動車整備士の国家資格を取得することができます。
自動車整備士資格の試験難易度と合格率について
3級自動車整備士
試験科目は学科と実技の2つです。学科試験は30問(60分)で、4択のマークシート方式が採用されています。合格率は60%~70%台で推移しており、自動車整備の専門学校を卒業した受験者が多い2級の学科試験の合格率(おおむね90%台)と比べるとやや低くなっています。3級は一般受験者が多いため、独学で受験する場合でも注意が必要です。
2級自動車整備士
2級は学科試験と実技試験の2つがあります。学科試験はすべて4択マークシート方式で、40問(80分)となります(ただし、自動車シャシ整備士の場合は30問(60分)です)。合格率はおおむね90%台で推移しており、3級よりもやや高めです。2級は技術力や知識の幅が求められるため、十分な準備が必要です。
1級自動車整備士
1級は学科試験と口述試験の2つに分かれています。筆記試験は50問(100分)で実施され、実技試験も課されます。難易度は高く、令和3年(2021年)の合格率は50%台に上昇しましたが、前年度の合格率は30%台でした。出題範囲が広く、整備士養成課程のある大学や専門学校の合格率は比較的高い傾向にあります。1級取得を目指す場合は、充実した勉強計画が必要です。
特殊自動車整備士
特殊自動車整備士の合格率は通常50%以上で推移していますが、年度によっては50%台を下回る場合もあります。特殊自動車整備士になるためには、専門的な知識や技術が求められます。合格率が比較的高い傾向にあるため、十分な準備と専門知識の習得が重要です。
自動車整備士の就職先・活躍できる場所
自動車整備士の就職先は、主にディーラーや自動車整備工場、カーショップなどが挙げられます。
また、大手運送会社やバス会社、ガソリンスタンド、レンタカー・ショップなどでも自動車整備の専門知識が求められるため、就職の選択肢として考慮することもできます。
特にディーラーや自動車整備工場では、幅広い車種の整備や点検、修理作業が行われています。国産車や輸入車など、様々なメーカーの車両に対応することが求められます。これらの場所では、メーカー独自のトレーニングプログラムを受ける機会もあり、専門知識の習得やスキルアップが期待できます。
また、大手運送会社やバス会社においても自動車整備士の需要が高まっています。長距離運転や定期的な点検・整備が必要なため、安全性を確保するための重要なポジションとなっています。さらに、ガソリンスタンドやレンタカー・ショップでも自動車整備の知識が求められることがあります。車両の状態管理やトラブルへの対応など、幅広いスキルを活かすことができます。
自動車整備士の就職は、新卒者の採用だけでなく、有資格者の中途採用も多いのが特徴です。この業界は常に求人需要があり、就職率の高さも魅力の一つです。さらに、自動車整備士としての経験を積んだ後は、カーレースのガレージで活躍するレースメカニックを目指す人もいます。競技車両のメンテナンスやチューニングに携わることで、独自のスキルやノウハウを身に付けることができます。
自動車整備士のやりがい、将来性について
自動車整備士になろうと思う人は、車が好きで車いじりが好きという人が多いです。自動車に関する専門知識や技術が身についていくこと自体にやりがいや面白さを感じるでしょう。複雑なトラブル時に解決法を見つけ、修理に至ったときの達成感は大きなものになるはずです。経験を積むにつれ、より高度なトラブルに対処できるようになれば、自分が成長していることを実感できます。先輩や上司からも仕事の内容を評価されるでしょう。また、お客様から感謝されたときにもやりがいを感じることでしょう。整備士はお客様の安全を守る仕事であり、車を介して人を相手にする仕事だということを忘れないでください。
将来性についても言えば、日本の車社会は成熟期とはいえ、自動車保有台数は若干の増加傾向にあります。地方ではまだまだ車がなければ生活が難しいところも多く、家庭の所有台数も増えています。また、電気自動車やハイブリッド車をはじめとする技術の進化により、最新技術を身につけた自動車整備士へのニーズは高まっています。
現在は自動車整備士の人材不足が課題となっていますが、総合的に考えると、車の保有台数が急激に減少しない限り、技術力の高い自動車整備士は仕事に困ることはないと言えます。自動車業界の技術革新に対応し、最新の知識と技術を習得することで、自動車整備士としての将来性を高めることができるでしょう。
自動車整備士の仕事はやりがいがあり、将来性もある職業です。車に情熱を持ち、技術を磨きながら成長していくことで、自分自身のキャリアを築いていくことができるでしょう。自動車業界は常に進化していますので、変化に対応する柔軟性も大切です。一つ一つの仕事に真摯に取り組み、お客様の安全を第一に考えながら、自分のスキルを高めていくことをお勧めします。